日本の介護保険制度について
指导教师: 周洁
作 者: 许燕如
院 系: 日语学院
专 业: 日语语言文学
学 号: 2008220355
完成时间: 2012年2月23日
摘要
20世纪70年代,日本进入高龄化社会后所引发的医疗及长期照护问题成为了突出的社会问题。日本通过实施介护保险制度,在一定程度上减轻了老龄化所带来的问题。
随着我国的社会进步和发展,老龄人口的不短增加,面对日益严峻的老龄化社会的现实,对他们的生活照料也将会变得愈来愈重要。
论文的第一章介绍了介护保险制度产生的背景。第二、三章对介护保险制度的意义及相关问题点进行了整理。第四章对介护保险制度今后的课题进行了简要论述。
本论文通过介绍日本现行的介护保险制度产生的背景、现状和实施效果,旨在对中国老龄化对策的制订起一定参考作用,期望以更加积极的心态和务实的措施解决中国老年人照顾的难题。
关键词: 老龄化 介护保险 老年人照顾
要旨
20世紀70年代、日本が高齢化社会に入って以来、医療問題と長期介護問題は深刻な社会問題となった。こうした状況の中、日本は介護保険制度を立ち上げ、ある程度高齢化がもたらした問題を解決してきた。
中国社会の発展過程において、高齢人口の増加により、厳しい高齢化社会の到来が予想できる。老人の介護問題はますます重要な課題となりつつある。
本論文の第1章では日本の介護保険制度の背景について紹介する。第2、3章では介護保険制度の意義と問題点について整理し、さらに第4章で介護保険制度の今後の課題について論述する。
本論文では、日本の現行の介護保険制度の背景、現状及び実施効果の紹介を通して、中国の高齢化対策の参考になることを期待する。また、我々は積極的な態度で、老人長期介護問題の解決に取り組むことを望む。
キーワード:高齢化 介護保険 老人介護
诚信保证
我通过自己的签名保证,我的论文是独立完成的,无他人代笔,所有从出版物中引用(包括图表等)均注明了出处;除了注明的文献之外,没有使用其他文献。
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目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1介護保険制度とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.1介護保険制度の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.1.1日本はすでに「超高齢社会」に突入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.1.2社会保険としての介護保険・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1.1.3介護保険制度の誕生と改正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.2介護保険制度の概要と現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.2.1介護保険制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.2.2介護保険制度の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2介護保険制度の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.1福祉と医療の統合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.2措置から契約へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.3権利性の明示とサービスの標準化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2.4民間事業者の参入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
3介護保険制度の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3.1総介護費用の増大・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3.2事業者の不正行為の増加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3.3介護従事者の確保難と処遇問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
4介護保険法改正の概要と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
4.1 2005年改正のねらいと概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
4.2 2005年改正の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
4.3これからの介護保険制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4.3.1介護報酬の改定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4.3.2保険財政の安定化への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
注釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
はじめに
今日の日本は世界に冠たる長寿国であり、高齢化が最も進んだ国となった。高齢化の進行は、政治経済社会をはじめとして日本その国のあり方や方向性に抜本的な変化を迫る重大事であることは言を俟たない。高齢化に対応するため、日本人は国の状況に基づいて、介護保険制度を創設した。
中国はこれから高齢化問題が深刻になっていくと考えられる。本論文では、日本の介護保険制度の発展経緯の紹介により、日本の介護経験を学び、中国高齢化問題の解決に貢献することを期待する。
1介護保険制度とは
1.1介護保険制度の背景
日本社会において、急速な高齢化の進行は、年齢別人口構成の変化は経済成長力を左右する一方、就業形態や消費構造の変化を通じて産業や市場、企業経営に大きな影響を及ぼしている。さらに医療や年金など社会保障制度が見直しを余儀なくされている。
高齢者のみの世帯の増加や介護期間の長期化などにより、家族の負担が増大し、充実した在宅介護支援サービスが求められている。
こういったことから医療・福祉のサービスを統合化し、利用者の意思が尊重されるとともに多様で利用しやすい介護サービスが提供されることを目的とした介護保険制度が成立したのである。
1.1.1日本はすでに「超高齢社会」に突入
2008年(平成20)の日本の総人口は、約1億2千770万人である。その内、65歳以上の高齢者人口は約2千800万人で22.0%を占め、日本はすでに「超高齢社会」[1]に突入しているのである。
2015年(平成27)には、いわゆる団塊世代[2]が高齢期を迎えるために、65歳以上の高齢人口は約3千380万人となり、高齢化率も27%と4人に1人以上が高齢者となる。その後も総人口は減少し続けるが少子高齢化はさらに進み、2055年(平成67)の高齢化率は40%を超えると予想されている。そのためにも、介護予防に重点を置いたサービスがますます必要になってくるわけなのである。
図1 高齢者人口及び割合の推移
資料:「国勢調査」及び「推計人口」
1.1.2社会保険としての介護保険
日本の社会保障には4つの柱として、高齢者や障害者などの生活を保障する「社会福祉」、生活困窮者に最低限の生活を保障する「公的扶助」、国民の健康の保持・向上を図る「公衆衛生」、そして「社会保険」があると言える。さらに、この社会保険の中に「年金」、「医療保険」、「労働保険」と共に「介護保険」があり、老齢・障害・病気・失業・労働災害・介護など、いざという時に保険料の給付やサービスが受けられる仕組み(制度)となっている。
図2 社会保障制度の仕組み
資料:介護助け合いホームページによる http://www.kaigo-town.jp/
1.1.3介護保険制度の誕生と改正
介護保険が始まる前は、税金を使って、社会福祉事務所などが介護サービスの提供を決定する「措置制度」という仕組みが取られていた。しかし、この措置制度は、高齢化の進展の中で財源の不足に直面しなければならない。
また、1996年(平成8)頃には、医療費は30兆円に迫る勢いを示し(平成16年度で32.1兆円)さらにその医療費の3分の1を老人医療費が占めていた。これには、介護を必要とする高齢者の世話を自宅でできないために病院に長期間入院させる、いわゆる「社会的入院」の増加も大きな要因の一つであると言われていた。そこで考え出されたものが、医療費から介護部分を切り離すことによって生まれた介護保険だったのである。
介護保険制度は、当初から5年後に見直す予定になっていた。そのため2005年(平成17)6月に介護保険法が日本の国会で改正され、2006年(平成18)4月から新しい介護保険制度がスタートし、2009年(平成21)4月より介護報酬の改定および要介護認定システムの一部が改正された。これが現在の日本の介護保険制度である。
1.2介護保険制度の概要と現状
1.2.1介護保険制度の概要
介護保険制度の創設以来、介護サービスの提供基盤は急速に整備されてきており、また、在宅サービスを中心に、利用者数も急速に増加するなど、介護保険制度は日本の国民の老後の安心を支える仕組みとして、広く定着してきた。
介護サービスの利用にあたって、まず被保険者[3]が介護を要する状態であることを公的に認定(要介護認定)する必要がある。これは、医療機関を受診した時点で要医療状態であるかどうかを医師が判定できる健康保険と対照的である。要介護認定は認定調査の結果をもとに保険者によって行われ、要支援1~2、要介護1~5の7つの段階に分けられる(法律上、要支援認定と要介護認定は区別され、要支援の場合、利用できる介護サービスが限定される)。
具体的には、要介護者の家族にとって、実際に介護がはじまるまでに、慣れぬ者にとっては煩雑な事務手続きと、数週間の手続き期間が必要である。介護保険を利用したいと思う者またはその家族は、まず自治体に対し、介護保険制度の要介護者として認定してくれるよう書類を提出しなければならない。その書類には担当医師の証明書を添付することが必要である。その書類に基づいて調査員が家庭訪問したり、介護の必要な本人に面接したりして、実際に介護を要することを確認し、調査報告書を認定委員会に提出する。認定委員会は通常複数の医師によって構成されている。認定委員会によって、要介護の度数(たとえば要介護3)や介護保険負担限度額の認定が行われ、「要介護3」などと記入された介護保険被保険者証が発行される。それを持って、デイケアや訪問看護を行っている施設へ行けば、ケアマネージャ(介護支援専門員)[4]が介護プランをたててくれる。それによって、やっと介護保険を利用した介護が受けられる。実際に介護が開始されるまでに家族が接触する、市町村の保健師、医師、市町村の調査員、介護施設(介護サービス事業者)のケアマネージャーのどれも直接に介護に携わるわけではなく、介護にたずさわるのは介護施設(介護サービス事業者)の介護士である。
風邪を引いたとき、健康保険証を持って病院へ行けば、ただちに健康保険を利用した医療が受けられるのと違って、いきなり介護施設(介護サービス事業者)に行っただけでは、介護保険を利用した介護は受けられない。市町村に要介護者として認定してもらうことが必要で、そのような制度により保険料の無駄使いを防止している。
介護サービス事業者については、厚生労働省により開設基準が定められており、都道府県から指定を受ける必要がある。介護サービス事業者は、1割負担を利用者から徴収し、残りの9割の給付費を各都道府県に設置されている国民健康保険団体連合会[5]へ請求し、支給される。国民健康保険団体連合会は9割の給付費を保険者から拠出してもらい、運営する仕組みとなっている。
図3 介護保険制度の仕組み
資料:介護助け合いホームページによる http://www.kaigo-town.jp/
図4 被保険者、受給権者、保険料負担、賦課徴収方法
資料:介護たすけあいホームページによる http://www.kaigo-town.jp/
1.2.2介護保険制度の現状
介護保険制度の現状を数字で示すと、次のとおりである。
介護サービスを受ける高齢者の数は、2000年の制度創設当初と比較して、149万人から2009年の384万人へと約2.6倍となった。この間、訪問介護事業所が2000年の9,833事業所から2008年は20,885事業所に、介護老人福祉施設が2000年の4,463施設から2008年には6,015施設に増加するなど介護サービスの基盤の整備も進んでいる。このように、要介護認定者や介護サービス利用者あるいは介護費用の増大は、介護保険制度がすっかり国民生活、とりわけ高齢者介護の世界に定着していることを示している。
2010年2月から3月に厚生労働省が実施した「介護保険制度に関する国民の皆様からのご意見募集」に寄せられた意見によれば、60%の者が介護保険を「大いに評価している」「多少は評価している」と回答している。また、2010年11月に内閣府が公表した「介護保険制度に関する世論調査」では、制度導入による効果として、「良くなったと思わない」者が29%だったのに対し、「良くなったと思う」者が51%であった。
介護保険制度は高齢期の暮らしを支える社会保障制度の中核として着実に機能しており、少子高齢社会の日本において必要不可欠な制度となっているといえる。
2介護保険制度の意義
第1章で述べたように、介護保険は従来の老人医療・福祉サービスの問題点を受けて、医療・福祉のサービスを統合化し、利用者の意思が尊重されるとともに、多様で利用しやすい介護サービスが提供されることを目的とし、日本社会に広がってきた。
次節は、介護保険制度の性格、従来の制度との違いについて述べていくことにする。
2.1福祉と医療の統合
高齢者保証のサービスは大きく分けると老人福祉制度と老人医療制度から成り立っており、従来はこの2分野はそれぞれ独自のサービスを提供していた。しかし、福祉と医療の連携が取れていなければ本当に充実したサービスは提供できない。
そこで介護保険制度では福祉サービスと医療サービスの統合化を図り、共通の窓口でどのサービスの申請もできるようになった。これによって利用者が従来より少ない手続きで多くのサービスを受けられるとともに、医療と福祉それぞれの専門家の連携が取りやすくなり、より多様で柔軟な対応ができるようになるのである。
2.2措置から契約へ
従来の介護サービス提供の多くは行政(市町村)が行う措置制度に基づいてなされていた。措置制度ではサービスを選択するのは行政であり、利用者は決められたサービスしか受けられなかった。
介護保険制度では利用者の自己決定を尊重するということで、措置ではなく利用者がサービス提供者と契約を結ぶという形になった。これで利用者は自分に合った介護サービスを自由に(要介護認定の範囲内で)選べるようになったのである。契約ということは受けたサービスが気に入らなければ契約を解除できるので、提供する側もよりよいサービスが必要となり、介護サービスの質の向上にもつながる。
2.3権利性の明示とサービスの標準化
介護保険制度では、保険料負担と保険給付という関係から権利性が誰の目にも明らかであり、措置制度のように低所得の困窮者への救済施策という性格も持たないため、利用者の権利行使としての積極的な利用が期待でき、利用者の範囲も大きく広がることが考えられる。
また、認定、給付、介護報酬等の面で新たに介護サービスの標準化が行われた。これにより、利用者は自分に合ったサービスを公平に受けることができるようになった。
2.4民間事業者の参入
この制度の施行によってもう一つの変化が見られるようになる。それは、サービス不足を解消するため、介護サービス提供事業について規制緩和が行われ、民間事業者の参入が可能となった。その傾向は顕著に見られ、自転車や自動車で外を見ていても訪問介護サービスとかかれたオフィスが目立つようになってきた。訪問介護サービスが、介護保険法の施行によって、ビジネスとして成立すると介護従事者が考えたからである。施設運営は資金がかかるため、個人業者は手を出すことはできないが、訪問サービスなら比較的低資金で事業を始めることができるので、参入する個人が増えてきた。
措置制度では、行政と施設側とのお金の行き来しかなかったが、契約制度によって、施設側は行政以外に消費者とのお金の行き来も考えなければならない。これは、施設側の質が求められるもので、消費者は、施設を選ぶことができるのである。メリットとしては、措置と違い、自分で選ぶことができるので、質の高い施設で障害者老人を預けることができる。家族側も安心感がうまれ、介護の質が上がるとしては、障害者老人も利用して良かったと考えるのであろう。
介護保険制度では、これにより競争原理が働き、サービスの量と質の大幅な向上が期待できる。
3介護保険制度の問題点
介護保険制度が福祉と医療の統合、措置から契約へ、権利性の明示とサービスの標準化また民間事業者の参入などの面において果たす役割について第2章で整理したが、その制度がもたらした変革はプラス面として認識されたほか、問題点も存在している。
第3章では、介護保険制度の問題点について検討する。
3.1総介護費用の増大
まず、制度の定着とともに総介護費用が増大し続けていることから、保険料負担の増大が見込まれ、制度の持続可能性が課題と指摘されるようになった。以下、介護保険制度実施後に見えてきた主要な課題について触れる。
制度実施後2004年度までに、介護保険の総費用、給付費は毎年度10%以上の伸びを示した。これは、国や地方自治体の負担増、保険料負担増につながる。医療保険制度と比較をすると、介護保険の保険料水準は低いが、こうした負担感には介護保険の特異性も反映している。すなわち、医療保険であれば被保険者は保険料を負担する一方で医療機関を受診することも多い。特に高齢者の場合には受診することが頻繁であるので、医療保険料負担にも理解が得られやすい。しかし、介護保険の場合には、要介護認定者が高齢者の6人に1人ということは、逆に要介護者でない自立した高齢者は6人中5人となる。自立した高齢者は介護保険給付を受けるということはないので、「保険料の掛け捨て」という意識を持つことになる。制度を運営する市町村保険者にとって、自立した高齢者に対して介護保険料の引上げについて理解を求めることには困難が伴う作業となる。
また、国の負担についても、社会保障関係予算の伸びを縮減しなければならないという厳しい財政状況から、介護保険の国庫負担が毎年10%以上増加することが許される状況ではない。
3.2事業者の不正行為の増加
制度実施後、介護サービス事業者が急増する一方で事業者の不正行為が見られるようになった。事業者の不正行為とは、サービス提供をしていないにもかかわらず介護報酬を請求する架空請求や、時間・回数の水増し請求、無資格者によるサービス提供やケアプランの作成、虚偽の指定申請、人員配置基準違反などである。これらを理由とした指定取消は、2003年度末までに全国で232事業所にのぼった。取消事業所の中では、訪問介護事業所や居宅介護支援事業所が多かった。介護保険給付費が増加する中で、保険者が介護給付費適正化対策に力を入れるようになったことも、事業者の不正行為の発覚につながった。
3.3介護従事者の確保難と処遇問題
介護保険制度創設の検討が始まった90年代後半から実施直後の2000年代初頭の頃は、拡大する介護ビジネスへの期待が高まり、介護福祉士の養成施設や大学における福祉関係の学部の創設が相次いだ。介護分野で働く労働者も急増した。
しかし、2006年の改正介護保険法の施行の影響や、他の産業分野の雇用環境の改善等から、近年、介護従事者の確保難や人手不足が顕在化してきた。人材確保のためには賃金引上げ等の対応が効果的であるが、制度実施以来、介護報酬のマイナス改定が続いたことから、介護事業所の経営状況は悪化しており、職員の給与の引上げ等の処遇改善にも限界がある。
全労働者の離職率が平均16.2%(2006年度)であるのに対し、介護職員の正社員では20.4%、非正社員では32.7%の高率となっている(介護労働安定センター調査)。平均賃金も20万円前後となっている。離職理由で多いのは「賃金が低い」、「収入が不安定」、「精神的にきつい」となっている。介護職員が集まらないために施設開所が遅れたり、開所規模を縮小したりする等の事態が生じている。介護福祉士養成校は大幅な定員割れに見舞われており、将来の人材確保という面でも危うい状況になりつつある。
4介護保険法改正の概要と課題
第3章で述べた介護保険制度の指摘された問題点が非常に重視されている。こうした状況から、介護保険法附則に定められた「法施行後5年を目途とした見直し」の一環として行われた「2005年法改正」において、「将来にわたる制度の持続可能性」すなわち総介護費用の伸びの抑制が大きな課題となった。
4.1 2005年改正のねらいと概要
2005年6月、介護保険法等の一部改正法案が国会で成立した。この改正は、法施行後5年を目途として制度の実施状況等について検討を行い、必要があれば所要の措置を行うこととした介護保険法附則第2条の規定を踏まえたものである。制度見直しの基本的視点として、「明るく活力ある超高齢社会の構築」、「制度の持続可能性」、「社会保障の総合化」の3点が掲げられ、新予防給付の創設や介護予防事業の推進等の予防重視型システムの確立、施設給付の見直し、地域密着型サービスの創設、地域包括ケア体制の整備、事業者に対する規制の強化等の措置が講じられることとなった。
広範な内容の制度改正であったが、改正論議の中で最も大きな課題は、急増する介護費用の増大を抑制するにはどうしたらよいのかという財政問題であった。制度の定着とともに、施行後6年間で約2倍となった介護費用の増大が、国や地方自治体の負担金、高齢者等の保険料を上昇させることとなり、経済界や地方自治体関係を中心に制度の持続可能性を問題視させた。政府にとっても、財政状況の厳しさから国庫負担の増大を抑制する必要性が高まった。
そこで導入された施策が、食費や居住費を自己負担とする施設給付の見直し(2005年10月実施)、保険者機能の強化による介護給付適正化対策の推進、軽度者(要支援者)に対する給付の抑制、介護予防事業による要介護者数の増加ペースの逓減等であった。さらに、2006年4月の介護報酬改定も前回に引き続きマイナス改定とし、費用抑制の手段となった。
4.2 2005年改正の課題
「2005年改正」の影響は、さっそく2006(平成18)年度の介護保険事業の実績に現れている。まず、介護費用総額が対前年度比0.5%減(342億円減)と、制度実施後初めて減少に転じた。保険給付費の伸びも1.4%増と極めて低率となった。第1号被保険者1人あたり給付費も219千円、対前年度比2.2%減と、これも初めて減少した。要介護認定者数は対前年比8万人増(1.8%増)であったが、第1号被保険者に占める割合では15.9%、対前年度比0.2%減と初めての減少となった。
こうしてみると、「2005年改正」がねらいとした介護費用の抑制策が功を奏したかのように見える。しかし、2006年度から始まったばかりの介護予防事業によって要介護者の増加が抑制されたとはいいがたく、実際には介護給付の抑制や介護報酬のマイナス改定による効果が大きかったものと考えられる。
たとえば、軽度者への訪問介護が毎月の定額制とされたことから、訪問介護における生活援助の利用が激減した。「使いにくい介護保険」という不満を高めることとなった。2006年度における軽度の要支援・要介護認定者数は対前年度比で若干の減少に転じたが、これは軽度者の要介護認定申請へのインセンティブが弱くなったことの反映でもある。
他方、「2005年改正」の目玉として導入された予防給付や介護予防事業であるが、その効果は不明である。2006年9月に公表された総務省の「介護保険事業等に関する行政評価・監視」によると、要支援者の間で介護予防サービスの利用率が高くないこと、特定高齢者の介護予防事業への参加率が低いこと等の実態から、厚生労働省に対して、介護予防サービス等の利用促進や費用対効果を明らかにすること、特定高齢者に対する介護予防事業について費用対公開の観点から厳密な分析を行い、事業の在り方を検討すること、等の勧告を行っている。
軽度者の介護サービス利用の抑制、食費等の自己負担化による施設サービスの利用抑制、さらには介護報酬のマイナス改定が、事業者の経営状態を悪化させている。「平成20年度介護事業経営実態調査結果」(厚生労働省)によると、これまで比較的収支差率が高かった特別養護老人ホームや介護老人保健施設でも、収入が横ばいの一方、人材確保難から職員の給与を引上げているため、収支差率が縮小している。訪問介護事業所は収支差率がゼロ近い水準であり、居宅介護支援事業所は20%近い赤字状態となっている。前述した介護従事者の確保難や処遇問題も、最近の介護費用の抑制という政策と密接に関連している。
結局、「2005年改正」における財政抑制策は、保険財政の面では一定の効果をもたらしたものの、利用者の介護保険への不満の増大、介護事業者の経営悪化、介護従事者の確保難等の問題ももたらしてしまったといえる。
図5 要介護度
資料:介護助け合いホームページによる http://www.kaigo-town.jp/
2006年の改正で最も重要な点は、介護の必要な度合いを表す「要介護度」が6区分から7区分に増えたことである。2006年3月までは要介護度は「要支援」「要介護1~5」に6区分され、要介護者(介護を必要とする人)は同種のサービスを受けていた。しかし改正後(06年4月以降)は、「要支援」が「要支援1」に、また「要介護1」が「要支援2」と「要介護1」に分離され、「要支援1・2」「要介護1~5」の7区分となった。
「要支援」や「要介護1」という軽度の要介護者の急増(2000年と06年を比較すると、それぞれ2.5倍、2.6倍の増加)は、新たな介護費用の発生につながった。そのため、軽度者への介護を「介護予防サービス」(要支援1・2対象)として「介護サービス」(要介護1~5対象)から切り離して別の給付体系とすることによって、介護費用の抑制を図ると共に、要介護者の発生予防にさらに努めるというわけである。
他の大きな改正点としては、地域包括支援センターの設置や介護保険3施設の居住費・食費の自己負担化、地域密着型サービスの創設などを挙げることができる。
4.3これからの介護保険制度
4.3.1介護報酬の改定
介護報酬は3年ごとに改定されるが、これまでの2回はいずれもマイナス改定であった。2003年改定では、全体としてマイナス2.3%(在宅は+0.1%、施設は-4%)、2006年改定では、全体としてマイナス0.5%(在宅は-1%、施設は0%。ただし、食費・居住費の一部負担を導入した2005年10月改定を含めると施設-4%。全体としても-2.4%)であった。
介護保険制度における介護報酬は、医療保険制度における出来高払いの診療報酬とは異なり、基本的には利用者1人当り1日(または1回)利用の定額払いとなっている。介護事業者が収入を増やすには、利用者数を増やすか、利用者を介護報酬が高い重度の要介護者にシフトしていく程度しか方法がない。ところが、介護保険施設の場合、定員数は決まっており、しかもすでに満床状態であるため、利用者数増加の余地はない。もともと重度の要介護者が多いために利用者のシフトにも限界がある。したがって、介護報酬のマイナス改定は直ちに収入減につながる。これまで介護事業者は、給食や清掃等の業務の外部委託や非常勤職員の活用等によって人件費や物品費を節約することにより、何とか利益を確保しようと努めてきた。しかし、サービスの質の確保の問題や、人手不足の現状では人件費を上げざるを得ないため、支出削減策も限界にきている。
「平成20年介護事業実態調査結果」によると、介護事業の経営状態は、全体的に収入が横ばいないしは低下する一方で、人件費の伸びによる支出増により収支差率が低下している。特に、これまで収支差率が比較的高く、そのため介護報酬がマイナス改定となってきた施設サービスにおいて落ち込みが大きい。特別養護老人ホームの収支差率は3年前の前回調査の13.6%から3.4%に、介護老人保健施設では12.3%から7.3%へ減少している。この数値をみるとまだ「黒字」であるため余裕があるようにみえるが、事業者はこの黒字分から施設建設費に要した借入金の返済を行ったり、将来の人件費引上げに対応したりしないといけないので、実質的にはぎりぎりの経営状態といえよう。在宅サービスの場合はなお厳しく、訪問介護の収支差率は0.7%、居宅介護支援事業はマイナス17.0%となっている。訪問介護事業所は、低賃金といわれるホームヘルパー等の賃金を上げる余裕もない。廃業に追い込まれる事業所が多数でても不思議ではない状況にある。
こうした状況の中で、2008年5月、与野党一致の議員立法として「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律」が可決成立し、2009(平成21)年4月1日までに、政府は介護従事者の処遇改善のあり方について検討を加え、必要があれば所要の措置を講ずるものとされた。前述してきたとおり、介護従事者の処遇改善は喫緊の課題であり、政府は、本年(2008)年10月30日に発表した追加経済対策の中で2009年度から介護報酬を3.0%引上げることを決定した。介護保険制度実施以来、初の介護報酬の引上げであり、介護事業者の経営の安定化、介護従事者の給与の引上げに資することであろう 。
4.3.2保険財政の安定化への対応
2015年頃には第1次ベビーブーム世代(1947~49年生まれのいわゆる「団塊の世代」)が高齢者の仲間入りをする。高齢者人口は現在よりも約800万人も増加して3,300万人となり、一人暮らしの高齢者世帯は570万世帯を数え、認知症高齢者も約100万人増加して250万人になると予想されている。
こうした状況においては、認知症高齢者への対応方法、高齢者の住まいのあり方など今後とも課題が多いが、特に保険財政の安定化対策について言及することとする。
日本の介護保険制度は、ドイツや韓国の介護保険制度と比較をして、要介護認定者の範囲が広く、かつ、要介護者1人あたりの保険給付水準が高いという特徴がある。そのため、高齢化の進行とともに保険財政は拡大し続けるという構造的な課題を抱えている。したがって、今後とも拡大する保険財政を誰がどのように負担するのかということは、常に問題であり続ける。だからといって介護保険の給付対象者の範囲を縮小したり、あるいは、居宅サービスを受ける際の支給限度額を引き下げたりするといった対応策は、行政的にも政治的にも困難であろう。そうであるならば、とりうる対応策としては次のようなものが考えられるが、「団塊の世代」が高齢者の仲間入りをする2015年の前には検討を進め、方向性を決めておかなければならない課題である。
また、介護保険制度が創設されて10 年が過ぎ、制度自体が複雑化され、利用者や家族にとって分かりにくいシステムとなっているとの指摘もあり、今後、制度改正を進めていく際は、できるだけ利用者や家族に分かりやすく、利用しやすい制度となるよう、配慮していくべきである。
おわりに
以上、日本の介護保険制度の背景、現状及び実施効果の紹介を通じて、介護保険制度が福祉と医療の統合、措置から契約へ、権利性の明示とサービスの標準化また民間事業者の参入などの面において果たす役割が明らかになった。日本の介護サービスの提供は民間だけで提供することはできないと考える。それは、介護は社会保障であり効率性だけでなく、公平性を考慮しなければならないためである。これから高齢化が進むとますます格差が広がっていく。そのため介護保険も必要になってくるのであろう。
中国でも、高齢化の進展に伴い、今後要介護者や高齢者はますます増加して行くと予想されている。現在の中国では、高齢者向けの社会サービスが明らかに立ち遅れており、要介護高齢者のニーズに対応しきれない状態にある。高齢者施設のベッド数は全国で120万5,000床である。これは、国際平均の高齢者1,000人当たり50床で推計すると、2009年の中国の高齢者人口,推計1.69億人に対して724.5万床のベッドが不足していることになる。その他,生活ケア,精神面のケアなどもサービスの提供が遅れている。こうした状況を背景にして、高齢者介護問題が中国社会において注目されるようになった。
中国は高齢者の介護問題に対応するため、社会全体で高齢者介護を支える仕組みを作るべきである。日本の介護経験を学び、高齢者介護福祉政策を打ち出し、「家族中心の介護」から「介護の社会化」へと転換する具体的な措置に対して引き続き検討を行っていき、社会の変化に応じて制度改革をしていくべきであろう。
作者签名:
注釈
[1] 超高齢社会とは、65歳以上の高齢者の占める割合が全人口の21%を超えた社会。
[2] 団塊世代は日本において、第一次ベビーブームが起きた時期に生まれた世代、または第二次世界大戦直後に生まれた文化的、思想的に共通している世代のことである。第一次ベビーブーム世代とも呼ばれる。
[3] 満40歳以上の者が被保険者となる。65歳以上を第1号被保険者といい、40歳から65歳未満の医療保険加入者を第2号被保険者(医療保険に加入していない者は第2号被保険者ではない)という。原則として保険者(市区町村又は広域連合)の区域内に住所を有する者を当該保険者の被保険者とする。
[4] 介護支援専門員は、介護保険法において要支援・要介護認定を受けた人からの相談を受け、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、他の介護サービス事業者との連絡、調整等を取りまとめる者。
[5] 国民健康保険団体連合会とは、国民健康保険法の第83条に基づき、会員である保険者(市町村及び国保組合)が共同して、国保事業の目的を達成するために必要な事業を行なうことを目的にして設立された公法人である。通称、国保連合会、国保連。統括団体として国民健康保険中央会がある。
参考文献
1.増田雅暢 『日本の介護保障』 法律文化社 2008年
2.結城康博 『介護―現場からの検証』 岩波書店 2008年
3.澤田信子等 『よくわかる介護保険制度イラストレイテッド』
医歯薬出版株式会社 2006年
4.厚生労働省 「介護保険制度改革の概要」 2005年
5.厚生労働省 厚生労働白書 平成23年版
6.相沢譲冶 『家族福祉論』 勁草書房 2002年
7.厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)